外国籍のお客様から店舗用の物件探しをご依頼いただく際、開業予定の業種として多いのがスナックなどの接客を伴う飲食業です。
実際、店舗用物件の中には前の借主がバーやスナック、クラブであった物件も多く、そのままそっくり設備や内装を残していく居抜き物件や、設置している設備や内装ごとリースで貸し出すリース物件などもあり、賃貸開始後すぐに営業を始めることができそうに思えるのだと思います。
でも、実はスナックやクラブの開業までにはクリアしなければいけないいくつかの手順があり、時間や費用がかかる上に、違反すると罰せられることになるんです。
そこで今回は、スナックやクラブの開業までに必要な手続きと、居抜き物件を賃貸する時の注意点についてご紹介していきます。
名義貸しはダメ!
外国籍の方がスナックやクラブの開業を検討されている場合、いろいろと手続きが面倒なので、とりあえず日本人の知り合いを名義人として営業許可を取ろうと考える方が多いです。
経営者とスナックやクラブの運営者が別であることは違法ではありませんが、店舗物件の賃貸契約上の名義人や営業許可書に記載の名義人がまったく店舗にはおらず、店の運営自体はすべて名義を借りた人が行っていることが発覚した場合、名義を貸した人も借りた人も両方法律違反で処罰されます。
ちなみに名義貸しで摘発された場合、名義を借りた人は無許可営業となり風営法違反で「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれの併科」の罰則、名義を貸した人は「50万円以下の罰金」の罰則を受ける可能性があります。
最低限必要な許可は?
一般的なスナックやクラブの営業に最低限必要な許可は、「社交飲食店営業許可」と「飲食店営業許可」です。それぞれについて簡単に内容とポイントを説明します。
社交飲食店営業許可
この許可は警察署に申請します。
「社交飲食店」は「接待を伴う飲食店」のことで、照明を落として店内お客さんの隣に座ってお酒をつくって談笑したり、カラオケでデュエットしたりする一般的なスナックの営業はこの「社交飲食店」に該当し、風俗営業法の適用を受けます。
社交飲食店は、店舗から100m以内に学校や保育園、図書館や病院などがある場所では営業できないので、申請前にしっかりとした調査が必要です。
さらにその後には基準を満たす内装計画の図面を作り、いすやテーブルの配置まで決めて、その後の実査に臨みます。
対応が大変なので、通常は許可申請に詳しい行政書士に依頼するのが一般的ですし、内装業者との連携も必要となります。
また、申請から実査まで約2週間、実査から許可が下りるまで55日程度かかりますので、店舗物件を借りてから約3ヵ月間は営業収入を得ることができず、家賃の支払いに耐えることになります。
飲食店営業許可
この許可は保健所に申請します。
食品衛生責任者を定め、調理場完成後にその図面とともに必要書類を提出して、概ね一週間後に実査を行います。その後、保健所の規定に照らし合わせて衛生面などに問題がなければ一週間程度で許可証が発行されます。
営業時間に制限はあるの?
社交飲食店は原則として、午前0時以降の営業はできません。
お酒を提供する飲食店が0時以降も営業するためには、深夜酒類提供飲食店営業の届出が必要ですが、社交飲食店であるスナックやクラブは風営法の適用を受けるため、普通の飲食店とは異なり営業を続けることは違法です。
「0時前はスナックで、0時以降は普通の飲食店だから」という言い訳も通用しませんので注意が必要です。
居抜き物件の注意点
スナックやクラブの開業を考える人にとって、居抜き物件は魅力的ですよね。
何より設備や内装がそのまま使えるので、開業にかかる初期費用を大幅に節約できそうに思えます。
それにもともとスナックがあった物件なら、わざわざ周辺調査をする必要もないので、許可申請にかかる時間や費用も節約できるような気がしますよね。
ところがそうでもないんです。
周辺調査や内装の確認は再度必要です!
周辺調査は?
「スナックの居抜き物件なら営業できていたんだから、100m以内に学校や病院があるかどうか調べなくてもいいよね?」と考えがちですが、前の店が許可を取った時から周辺の状況が変わっている可能性があるんです。
最近、その店舗の100m以内に小さな保育園や入院施設のあるクリニックができた場合、同じ物件でももう社交飲食店の許可はおりません。あくまで「今」の状況が重要なんです。
内装は?
「前の店が営業していたんだから、基準を満たした内装に決まってるでしょ。」と思いがちですが、前の経営者が許可を取った後に勝手に内装を変えてしまっている可能性があるんです。知らずにそのまま実査を受けて、「これでは許可できません」と言われないように、しっかり確認しておくことが必要です。
その他の注意点は?
居抜き物件の賃貸はお得に思えるかもしれませんが、家賃や保証金とは別に「造作物譲渡」として厨房機器やソファー、グラスや食器類などの買取代を別に請求される物件もあります。物件を探す際には、契約条件をしっかり確認しましょう。
まとめ
「スナックならお酒とスタッフが揃えば簡単に開業できる」とか、「できれば居抜き物件を見つけて安くて簡単にクラブを開業したい」と考える方が多いのですが、実際にはたくさんの費用と時間がかかります。
特に、必要な申請を出す時点ではお店の場所を決めておかなければならないため、既に店舗物件の賃貸契約は始まっていることが重要なポイントです。
契約時点で保証金や前家賃、手数料を払っているのに3ヵ月程度は営業許可取得にかかるため、営業収入が無いままさらに家賃を払わなくてはなりません。
また、後から許可が取れないことがわかっても、店舗の賃貸契約を解除するには一定の費用が必要になります。
後から後悔しないためにも、スナックやクラブの開業を考えている人はしっかり事前準備をすることをおすすめします。